三、(3)本庁との温度差

第一章 浄水場喪失

 応急給水所を展開していくと不足するのが運営スタッフです。据え置き1㌧タンクやそれにつなげる蛇口キット等々、それら機材が全く不足しているため無人化ができません。そのため、1㌧タンクのコックを直接ひねって給水袋や持参の容器に水を入れてあげる必要があるのです。

 その日18時から開催された本庁災害対策本部会議で、声を大にして私がスタッフ増派を訴えたのは言うまでもありません。ただ…、本庁と水道局にはかなりの温度差があったようです。あとで聞いたところでは、この頃の本庁の職員はまだ何をやらなければならないのか整理しきれておらず、手持ち無沙汰の職員が多数いたとのことでした。それにもかかわらず人事を束ねる総務部の辻田部長からの返答は「総務課が一生懸命やっているので、ちょっと待ってくれ」だったのです。発災当初がピークだった我々水道局への人的支援は、本来もっと迅速に行われていなければならなかったと思っています。水道局の職員の中には、本庁は職員を温存していると言っていた者もいました。

 辻田総務部長とは、旧宇和島市役所の同期入庁で高校が同期という具合に、いわゆる腐れ縁の仲です。〝いてまえ〟型の私とは違い、何をやるにも慎重な市長部局ナンバー3の彼、この災害時の慎重さが遅さに見え、時に私をイラつかせることもありました。ただ、ミスリードが最も許されない総務部長を務める人間は、そのような人材でなければいけないのかもしれません。

 その時の本部会議では、吉田地域と宇和島地域(宇和島市中心部)を結ぶ大動脈国道56号が、片側だけながら通行が開始されたとの報告がありました。これで狭く崩れそうな黒の瀬峠を無理して越える必要が無くなりました。このことは吉田地域への応急給水にとって大きな進展でした。

ー この記事の原文は水道産業新聞2020年(令和2年)10月12日版(第5447号)に掲載されたものです ー


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