二、(2)厚生労働省水道課(一)~リエゾン到着~

第二章 一歩一歩

 県の三人と別れて隣の水道本局に戻り、昼食を終えてしばらくたった14時のことです。胸に日の丸の刺繍があしらわれた、紺色のピシッとした現場服をまとった方が来局しました。普段の宇和島ではお目にかかることがほぼ無いその出で立ちは、厚生労働省本省の現場服でした。

 厚生労働省医薬・生活衛生局水道課、日本の水道行政を束ねる厚労本省水道課から、江戸本課長補佐が水道局駐在リエゾンとして来訪したのです。

 事前の連絡の有無は記憶にありません。到着後も我々にあれこれ質問せず、ただただ静かに座っています。流石、これまで色んな災害現場にリエゾンを送り出してきた国の本省です。仮に事前の連絡で資料準備を要請されていたとしたら、我々は貴重な時間を費やしていたでしょう。また、到着後質問攻めに合えば、我々のペースは狂ってしまっていたでしょう。そういえば、2日前の夜到着した仙台市水道局の二人も同じでした。現場のペースを乱さないというのが支援で現地を訪れた者の原則だと、この三人は態度で示していたかのように思えました。

 少し時間をおいて、そんな江戸本補佐に給水課長の仁村は自分のペースで質問し始めていました。今何をすべきかということを。

 江戸本補佐は的確に仁村にアドバイスしました。まずはマンパワーの確保だと。被害の全様が分からない現時点でも、設計や施工管理を含めた総合管理に従事可能な水道技術職員の派遣要請を、すぐにでも日水協へ行うべきだと言うのです。

 このアドバイスは我々の気持ちを楽にしてくれました。自分たち宇和島市水道局だけで事態を打開していかなければならないのではなく、人に助けてもらえば良いのだと厚労本省からも言われたのですから。

 話を聞いていると、既に倉敷市はその要望を日水協へ上げているとのことでした。倉敷市は今回の豪雨で最も人的被害が大きかった被災地、そこと同様の考えを持てば良いと言うのです。裏を返せば、宇和島の被害の重さは同レベルだと国は考えているということ。今回の災害で宇和島が受けた傷の大きさを、我々は別の表現で教えられたのでした。

 17時、試験通水をしていた迫目配水区からの水が融通区域で水質試験をクリアし、飲用が可能となりました。少しですがやっと断水人口を減らすことができました。はじめの一歩です。

 また同時刻、複雑に入り組んだ吉田地域の配水区において、本来吉田浄水場からの水で賄われている配水区へ長谷配水区から通水する試験も開始されました。使える水源によって少しずつ広範囲に通水試験をすることで、早めに漏水の調査を進めます。結果的にはこのことによって、代替浄水施設完成後の断水解消を大幅にスピードアップすることができたのです。

ー この記事の原文は水道産業新聞2020年(令和2年)12月10日版(第5461号)に掲載されたものです ー


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