三、(6)火を点ける人と消す人

第二章 一歩一歩

 話を会議室に戻します。

 懸念材料として全員が心配していたのが、ポンプの納期の事です。この件は厚労本省からメーカーへ既に働きかけを行ってもらっているのですが、どうやらそれを水道課長が自らやっているらしいのです。これはリエゾン江戸本補佐から聞いた話です。日本の水道界を束ねる是川水道課長、きっと凄まじい威力を持っているのでしょう。この件は厚労本省へお任せするということで意見は一致しました。

 細かい懸念事項はたくさんありましたが、もうひとつ納期の心配な機材がありました。吉田地域代替浄水施設の原水を運ぶ南予用水南幹線、この管径が700だったか900だったか記憶から消えてしまっているのですが、ここから不断水で分岐するサドルが無いというのです。今、筆を進めていても、このあたりの表現が正しいかどうか、私には自信が全くありません。そんな水道の世界では素人の私ですので、会議でのこのような会話に入って行けるはずがありません。ただ私の隣にはリエゾン江戸本補佐が座っています。私は耳打ちしました。「これ、何とかなりませんか?」と。

 その後さほど時を経ず、この件は厚労本省の力添えで一件落着となったのでした。是川課長が各所に働きかけるのを、この時から私は〝是川砲〟と呼ぶことにしたのでした。是川砲炸裂!

 この会議では、「水を早く送る」事に向けて全員が建設的な議論を重ね、工期の短縮に向けて各々が努力するという1点で一致したのでしたが、途中、理解しがたい出来事がありました。建築物に係る建築確認申請や道路占用・使用許可など、法令との整合チェックを進めていた時の事です。

 今回使用する水処理装置は濾過式の浄水装置です。そのため濾過材を定期的に洗浄しながらその性能を維持していく必要があります。その際の廃水を吉田地域では河内川へ放流、三間地域では原水を取水する中山池に還流することで設計を進めていたのでしたが、一定量以上の河川放流には許可が必要との意見が出たのでした。

 その許可事務を所掌する県の建設行政担当部からもその日、職員が一名出席していました。皆は尋ねます。「許可はどれ位で下りるか?」と。答えは「数カ月」…。

 その時の私ほどではないようですが、後で聞くと少なくとも私の周りの出席者は尋常ではない感情を抱いたとのことでした。

 私は真っ先に発言しました。「この会議は1日でも早く断水を解消するために、できないと思われることも可能となるよう、全員で知恵を出し合う場です。もし判断に苦しむようでしたら、私が直接県庁に電話を入れさせていただきます。誰にすれば良いですか?杉田部長ですか?他の方ですか?」と。

 杉田部長は数年前は都市計画担当課の課長でした。優秀な同氏、私はその頃からすぐに局長そして部長になるだろうと思っていたのでしたが、その予想は的中しました。都市整備課長時代の私は、当時の杉田課長と県庁での会議で同席し、またそのあとの懇親会で交流を深めていました。、また、私が水道局へ異動したのちも、県庁へ出張するたびに一言挨拶に伺うなど、顔の見える関係を維持していました。なので、携帯電話の番号までは知らずとも、すぐに電話をする気になっていたのです。 

 ただそこには通常どおりではない感情を持ちながらも、沈着冷静な人たちがいました。彼らは沈殿槽を設けて放流量を減らすなどの工夫をすれば良いのではないかという意見を交わしています。そして決着をつけたのが、県の水道行政担当局の竹本局長です。「一定量を超えないのならば、そもそも許可申請自体不要となりますよね?」との感想をポツリと言ったのです。それで一気に場の雰囲気は変わりました。竹本局長は「不要!」とは断言していません。ただ呟いただけです。でもその一言が、そののちこの問題を解決済みの領域に吹き飛ばしたのです。この竹本局長に私は過去に会ったことがありましたが、話をしたことが無かったので人物像は知りません。ただ、この時わかりました。彼が粋な人間だったということが。

 火を点ける私のような男、そして火を上手に消す沈着冷静な方々、そんな色々なタイプの人の出席によりこの会議は成功裏に終わり、代替浄水施設の早期完成へ向けた動きが強まっていったのでした。

 この日もいつもどおり、18時から本庁災害対策本部会議が開催されます。その前の17時30分、私は南予水道企業団竹本事務局長と一緒に市長室に入り、副市長同席の下で先ほどの会議結果についての市長報告を行いました。

 そこで正式に、吉田・三間両地域一カ所ずつの代替浄水施設から8月下旬の通水を目指すという方針と、2日後の7月19日にこの件についての報道発表を行うということが決まったのです。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)1月25日版(第5471号)に掲載されたものです ー


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