三、(9)副市長本領発揮

第二章 一歩一歩

 18時からの本庁災害対策本部会議の前に、私は市長室に入りました。明日の報道発表の事前打ち合わせです。

 特にこの頃から、副市長がその力を遺憾なく発揮し始めました。

 副市長は新市長誕生に遅れること約4カ月、平成30年(2018年)の1月にその職に就きました。3歳上の私の兄と高校の同窓で、前職は愛媛県の総務部長です。就任直後の大寒波による水道管の広域凍結漏水事故、そしてこの豪雨災害、本人は「私が連れてきたのかね?」と冗談半分言っていたのでした。それはその年度に就任した市長や私も同様です。もしかしてこの3人が…。

 さて、副市長は県の総務部長をこなせる程の人物です。他県も同様でしょうが、愛媛県庁は宇和島市のような小さな基礎自治体と何もかもスケールが異なっています。例えば首長の行動を例に挙げると、宇和島市では市長の単独行動も当たり前ですが、それに引き換え愛媛県では、知事を先回りしながら何人もの職員が同行する、そのように規律も何もかもが異なります。そのような中で組織を仕切っていた副市長、宇和島市のこれまでの行政手法に疑問を多く抱くのは当然のことでしょう。就任直後から自身の経験を基にした流儀で宇和島市役所の改善を進めていました。

 旧来の方法が根付いている宇和島市の職員にとってはそれが馴染みにくく、特に市長部局には大きな戸惑いを示す職員も多く見られたのでしたが、この時の災害対応、特に報道対応については、この副市長がいなければどうなっていたのかわかりません。状況に変化が見られた場合には、直ちに、しかし慎重にプレスリリースを配信するなど、我々旧来の宇和島市職員には見たことが無い手法を駆使して対応していたのですから。

 かなり後になってからの事でしたが、某辛口報道機関の記者が私に、「今回の宇和島市の報道対応は良かったですね。」とか、「石丸さん、流石ですよ。」とか言ってくれたのでしたが、それもこれも副市長が県庁流の報道対応を注入してくれたおかげです。

 組織には時々新しい空気が必要だと、この副市長が改めて教えてくれました。

 18時からの本庁災害対策本部会議では、滝本消防長から消防の3・5㌧給水車が空いたとの報告が入りました。

 この次への一手を可能とする情報をもたらした消防長と私は、約20年前まで同じアパート暮らしでした。その時、私の子供たちと同年代の幼い2人の子供を養っていた滝本消防長は家を建て、また私は一人暮らしをさせていた母のいる実家に妻と3人の子と共に移り、しばらく疎遠の期間が続いていたのでしたが、今度はこの場で同席することになったのです。

 こののち、滝本消防長は要所要所で水道局と私、いや、被災地を助けてくれることとなっていきます。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)2月8日版(第5475号)に掲載されたものです ー


《無断転載はお断りいたします。》

*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました