四、(6)音地水源(一)

第二章 一歩一歩

 今回の豪雨では、三間地域でも一部地区が土砂災害に見舞われました。その中で最も大きかったのが独自水源を持つ音地地区です。この配水区では表流水の原水濁度が高く、また、配水管等も著しく損傷していたため、独自水源にもかかわらず依然断水が続いていたのです。ただ、濁度が下がり補修用資材もそろったことから、この日15時から初めての試験通水が開始されました。

 破損個所を調査しながらの通水のため、流しては止め流しては止めの繰り返しで、思うように作業がはかどりません。ただこの日、何とか音地配水区全域での通水作業が完了したのです。

 その復旧作業の音が聞こえたのか、同地区が地盤の代々木市議から電話が入ります。まずは作業開始に対する謝意でした。やはり聞こえていたようです。ただ本題は別の事です。地元にお願いしていた、音地水源から大内地区への水道水融通に対する回答の件でした。

 市内各所にある自己水源は、水道用水だけでは無く農業用水を兼用しています。水田への水が豊富に必要なこの時期、水に関する相談はかなりデリケートな問題でした。

 代々木市議はこの件に関して、地元自治会長との橋渡し役という役目をこの時担ってもらっていたのでした。受話器から聞こえてきたのは、水道局の職員が自治会長を自宅に訪ね直々にお願いして欲しいとの回答です。

 やはり簡単ではないようです。代々木市議には、人的余裕が無いため、職員を向かわせることは非常に困難だと伝え、電話を置いたのでした。

 その後再び代々木市議からの電話です。自治会長と再調整してくれたそうで、地元への要請は文書で構わなくなったという内容でした。

 地区それぞれ、私が全く知らない水の事情があるのでしょう。そんな中で調整に動いてくれている市議にお礼を言って電話を切り、そして説明文書を作成し地元へ持参するよう給水課に命じたのでした。

 15時15分、今度は市長からの電話です。吉田のC社長へ、地下水の件で礼と詫びの電話を入れたいので、経緯のレクチャーをして欲しいとの事です。

 この件は前市長から情報がもたらせられた当初から、市長には報告済みの事でした。そして水道局の方針についても。市長はこの件についても事情を理解し我々の方針を尊重してくれています。方針決定までは極力口を出さず最後には責任者として後始末してくれるこの市長、何と理想的な上司でしょう。若い上司からまた学ばせてもらいました。

 この電話を終えすぐに、今度は本庁総務部の企画情報課へ電話をいれます。

 代替浄水施設の完成後に送水をぬかりなく進めていくための、横浜市水道局からの助言を実行するための相談です。土砂で埋もれた吉田浄水場から既設送水管中への、土砂流入についての事前カメラ調査についての件です。

 調査地点によっては、土石流で橋が流失しているため作業車が近寄ることができない箇所があります。その仮復旧を自衛隊に要請ができないか、自衛隊との連絡窓口担当の門原課長補佐へ相談するためでした。

 彼からの返答は私の想定内でした。自衛隊の民生支援は原則他の方法では困難な場合に限られています。そのため彼は、打診はするもののこのケースでは難しいとの予想を私に伝えます。私はそれでもやれることはやっておくとの姿勢で、相談をしてもらうよう依頼しました。

 後日のことですが私の予想は当たり、自衛隊から良い返事が返ってくることはありませんでした。ただ別の方法によって、何とか対岸に渡ることなく調査を終えることができ、土砂が流入してないことを確認することができました。良かった。

 通水に際しての障壁がひとつ取り除かれました。我々では思いもつかなかった点についてのアドバイス、本当にありがたかったですね。トップクラスの技術系職員が派遣される意義が、成果という形で現れました。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)2月25日版(第5479号)に掲載されたものです ー


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