この手記を読み進めている皆さまは、既に感じているかもしれません。『水道局での災害対策本部会議はいつやっていたのか?』と。
実はまだ一回も開催していなかったのでした。応急給水体制についての支援側への情報提供がおろそかになっていたのは既に記したところですが、これまでは個別協議・個別情報提供を基本方針として私は対応を進めていました。
私を含めた宇和島市水道局側に、時間的な余裕が全く無かったことが大きな理由でしたが、もう一つ私が見送っていた理由があります。私のポリシーの一つに、会議とは整理された情報を基に次の一手をどうしていくかを討議する場であり、目を通せばわかる資料を読み上げていく報告会となってはならないというものがあります。毎日最低一回開催されていた本庁災害対策本部会議は、初期の段階では情報共有という点で有意義だったのでしたが、この頃は各部局からの事前提出情報を基にした資料に従い部局長が説明するという、時間が惜しい者にとってなかなか我慢ならない形態に変化していたのです。「ご覧のとおりです」の一言で終わる事項でも、わざわざ数値一つ一つまで読み上げる〝ご丁寧な〟報告者もいたように。
会議の構成は、市関係者が中心だった初期段階のメンバーに加え、県警を含めた県の関係部署や国土交通省TEC-FORCE等の国からの追加派遣、また陸上自衛隊や航空自衛隊なども加わり、もはや現実ではなく、映画の世界に迷い込んだとの錯覚を覚えるような顔ぶれに変わっていました。また、人数も随行者を含めて50名を超えるほどに膨れ上がり、それまでの第一委員会室では入りきらず、議会棟の議員協議会室にその場を移していました。
そこで行われていたのが報告会状態になりつつあった会議です。私は映画「シンゴジラ」の一場面を常に連想するようになっていました。のちに本庁の心ある人たちによって少しだけ改善されたのでしたが、私はこの〝無駄〟を水道局に持ち込みたくなかったのです。
ただ、水道局も少しずつ状況が変わってきました。この頃までの情報量と決定事項ならば、支援側の各々と情報交換・協議を行う方が早いと私は考えていましたが、ヒト・モノの充実に従い〝そろそろ感〟が私の頭の中に生まれてきていたのです。7月17日の浄水場復旧調整会議のような、次の一手をまとめていくために本当に必要な場の存在が。
それを後押ししてくれたのが、松山市公営企業局と仙台市水道局でした。この日初めて両市と我々宇和島市水道局の三者による協議が行われ、日水協県支部を中心とした宇和島市への支援体制を進めるという基本方針をお互いに確認するとともに、水道災害対策本部会議の早期開催について両市からアドバイスが出たのです。支援者・受援者の感覚・意見が一致しました。
なお、この日の本庁災害対策本部会議は14時からでしたが、それは相変わらずの報告会でした。1回の本部会議に出席するため、本庁への往復を合わせ1時間以上取られ苛立つ私の表情、皆さま何となく想像できるのではないでしょうか。
21時10分、珍しい人からの電話です。長きに渡って吉田町議・宇和島市議を続け、前回の市議選を戦うことなく引退した小岩井前市議でした。
前市議は確か私の一つ年下、新市誕生前からお互いの息子が中等教育学校でサッカー部のチームメイトだった縁で、保護者会を中心に何度も何度も酒席を共にするなど、お互いの顔が見える関係でした。市議引退後、彼はこれまでも兼ねて頑張ってきた柑橘栽培に専念していましたが、彼の柑橘農園もこの災害で再起不能に近い被害を受けたのです。
クラウドファウンディングなどの柔軟な発想により、今は再起に向けて大きく前進中の彼、そのもう一つの発想は政治力を使った正面突破です。私にはよくわからないながらも、彼を含めた年が近い市議たちとの付き合いで感じたのは、政治力には人との繋がりが重要なんだなというのが一つあります。何しろ皆さん、中央・地方含めて全国に議会繋がりの知人を持っています。特に市議会議長を務めた経験のある彼などは。
自身の被災のことはさておき彼の要件は、仙台市議会の知人の議員からの頼まれごとに関する事でした。話を聞くと、仙台市議会はその総意で宇和島への仙台市職員派遣を働きかけているということで、そのため受け入れ側の様子を知りたいと言われたそうです。そこで私に水道局としての是非を聞いてきたのでした。
やはり400年以上の絆がある仲です。仙台市は市を挙げて宇和島市を応援してくれようとしています。ただ、水道についてはもう既に大きな支援をもらっています。また、日水協ルールに従って松山市を中心とした事業体からは、こののちも更に大きな追加支援を受けることになりそうです。
小岩井前市議にはその事情を説明し、また、申し出に対しての謝意を伝えてもらうようお願いし電話を切りました。
ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)3月29日版(第5486号)に掲載されたものです ー
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*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
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