一、(6)再びの前市長

第三章 一日でも早く

 発災17日目、7月23日午前10時30分、前市長の来局です。例の個人所有井戸の件がまだ引っかかっているのかと思って話を聞くと、どうやらそうでは無さそうな雰囲気です。

 代替浄水施設の建設とその通水開始見込みを報道で知り、自身の想像より早いスピード感に以前よりも安堵感を覚えているようでしたが、やはり前市長は完璧主義者です。公表では1カ月先となっている通水開始までの事が、今度は気がかりになってきたとの事です。そして、別の私案を切り出してきました。

 簡単に言えば、その時生活用水拠点の水槽に充水していた活魚運搬車を配水池に向かわせ、配水池に直接水を投入すれば良いのではないかというアイディアです。

 吉田・三間両地域の配水池はほとんどが比高50㍍前後の小高い山の上にあります。しかも完成時期がかなり以前なので、現在のようにまず工事用道路という考えは無く、そこまでのアクセスは階段を歩いて登るしかありません。一箇所を除いて。

 私はその時、通水時期前倒しの情報を知っていました。それが実現すればあと10日ほどで通水が開始されます。そのためこのプロセスを最優先し、マンパワーをそこに集中させようとしていました。ただ公表前にそれを口にすることは出来ません。私は誤魔化して答えました。活魚運搬車での運搬と投入に適した配水池はなかなか見当たらないと。ただ前市長は候補地を既にリストアップしていたのです。三間地域の北西部に位置する則配水区の則配水池をピンポイントで。

 私は驚きました。水道事業に全く興味が無かったと思っていた前市長の頭の中に施設の位置情報が入っていたのですから。確かにここ一箇所だけはすぐ横を県道が通っています。しかも前市長は現地まで確認に行き、充水作業に必要なヤードやその土地の所有者など全てを調べ上げていたのです。

 その時の私の本音は、この私案対応に時間をあまりかけたくないということ。やる気になれば確かに実現可能ですが、マンパワーは本流対応に置いておきたかったということです。

 その時取った私の行動は、前市長に対する回答の先延ばしでした。なぜなら通水開始前倒しの発表日時が間もなく決まりそうだったからです。

 前市長が水道本局を離れた直後の10時55分、南予水道企業団竹本事務局長よりの電話です。

 『発表日時が決まったか』と一瞬思いましたが、その予想は外れました。前日から本格的に開始された三間地域での仮設送水管布設工事に関して、報道機関から質問が来たとのことで、現地入りしている施工業者数についての確認が用件でした。私は業者数を伝え、竹本局長から回答しておいてもらうこととしました。

 11時25分、私は滝本消防長へ電話します。消防の給水車の運用状況を確認するためです。

 現在、吉田地域内の公的施設を中心に1日5往復中で、あと1往復ならば可能との回答です。それを有効に活用しようということで意見は一致しました。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)4月1日版(第5487号)に掲載されたものです ー


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