一、(7)紅一点

第三章 一日でも早く

 正午前には、本庁保健福祉部の高田部長から電話が入ります。高田部長は私と同い年、旧津島町出身で話し方は柔らかくも芯が通った女性部長です。宇和島市での女性の管理職への登用率は非常に低く、当時60人近くいた課長級以上の中に彼女以外には病院局に課長が一人いるだけで、特に災害対策本部会議等の本庁幹部級会議では、常に紅一点というありさまでした。その中での奮闘ぶりには、いつも頭が下がる思いでした。

 宇和島市は高齢化率が40%を超える超高齢化社会に突入しており、特に吉田・三間地域はそれが顕著となっています。そんな状況下の長期断水でしたが、個人が使う水は、高齢者を含めて応急給水所まで個々で取りに来てもらうしかありません。水道局ではそれ以上の対策を取る余裕が無い中、保健福祉部は民間ボランティアと協働で、高齢世帯等給水が困難な住民への水の送り届けを始めていたのです。

 高田部長は控えめに私に言います。被害が甚大で孤立している吉田奥白井谷地区への給水はできないかと。趣旨は理解できた私でしたが、支援を受けてなおギリギリの体制で踏ん張っている水道局の体制を説明し、現状を維持してもらうようお願いするしかありません。私に電話をかける前から彼女は事情を理解していたのでしょう、「わかった」の一言で活動の継続を約束してくれたのですから。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)4月1日版(第5487号)に掲載されたものです ー


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