二、(14)全員議員協議会

第三章 一日でも早く

 

 電話を終えてすぐに、14時から開催される宇和島市議会の全員議員協議会に私は向かいました。翌31日に開催される臨時議会に上程する予算議案の事前説明に加え、被害や復旧に関する状況報告などを行うためです。

 会議では私からの説明ののち、断水区域の水道料金減免方針などについての質問が議員からありました。この件については鴨脇業務課長が質問が出ると予想し、減免を行うという方針で既に市長の了解を取っていました。彼の察知能力のおかげもあり質疑を含め水道局に関する協議はスムーズに終了。逆に複数の議員からの激励によって議会が我々と同じ方向を向いていることを知り、勇気づけられたのを覚えています。

 なお全議員出席が原則のこの会議、実は私はかなり以前から出席し各種事業説明を行うという経験をしていました。最初に出席し説明したのは、丸山公園という運動公園内の野球場を改修する計画が持ち上がった時のことです。

 この通称「丸山球場」が開設されたのは昭和49年(1974年)、私がまだ中学生の頃でした。それから30年余り経った平成19年(2007年)、建設当時の塩分残留度が高い海砂が混入した劣悪なコンクリートの影響で、鉄筋コンクリートの命である鉄筋が腐食爆裂し、RC構造物の耐用年数はるか以前にあったにもかかわらず、耐震非対応という事情もあって大規模な対策が必要となっていたのです。

 当初は耐震補強を基本に改修する予定でしたが、その事業費概算が3億円程度と見積もられたことで事情が一変しました。取り壊して新たに改築整備するほうが良いのではないかとの意見が内部で出始めたのです。

 当時私は都市整備課の公園緑地係長で、前年度まで15年間担当してきた丸山公園第二期事業を終えホッとする時を過ごしていました。それもつかの間、この事業を受け持たなければならなくなったのです。しかも当時の市長が全く乗り気でなく、「議会がOKならおやりなさい」とまで言われた事業を。

 第二期事業は陸上競技場や多目的グラウンドが中心施設で、個別の相談を組み合わせることで事業を進めることが可能でした。それに対し野球場改修事業は、平成17年8月の新市合併時には改築計画が予定されていなかったこともあり、その時の手法で進めることは無理だということが容易に想像できました。そのため検討委員会方式で計画を一から積み上げる手法としたのです。野球関係者やスポーツ団体代表だけでなく、議会からも委員として参画してもらう形で。

 そんなこんなで年度末に近づいた2月、4回の検討委員会で練った案を全員議員協議会で説明することとなりました。その案を実現するには当初の見込みの2倍以上となる7億円程度が必要になることを含めて。

 その時誰が説明するか、そうです、課長でもなく課長補佐でもない、係長の私がすることになったのです。旧宇和島市の議員ならまだしも、旧3町の議員は私のことなどおそらく知りません。そんな面々を前に一介の係長が喋るのは、なかなか困難なことでしょう。私はキチンと説明台本を作成し会議に臨みました。

 私が係長になったのは新市誕生の時で、当時46歳とかなり遅い昇任でした。それから2年後、50歳までもう少しという時の初全協(全員議員協議会)です。若い頃はあがり症だった私ですが、人前で話すのに慣れ始めた頃でした。地声が大きい私は、マイクが不要なほどの声量で落ち着いて説明を終えます。そして質疑。

 案の定、旧3町の議員から反対意見が出ました。ただそれをかき消すような賛成意見も出てきます。真冬の議員協議会室で大汗をかきながら、またそれをハンカチで拭いながら一つ一つ回答していきます。乗り気でなかった当時の市長からは援護射撃など来るわけもありません。

 そんな中、私のことを知る議員などから「どうせやるなら、次の世代のためにキチンとした物を造っておくべきではないか」との意見が出始めました。その流れに逆らわずに回答を続けていたところ、最終的に提案した内容やむなしとの結論で了承されたのでした。

 この経験は私にとって大きなものでした。トップダウンではなくボトムアップの事業計画を通すことができたのですから。こののち担当したJR宇和島駅周辺整備事業はトップダウン、同様に議会から反対意見は出ましたがそのプレッシャーはあの時の比ではありませんでした。若い頃の経験はどうのこうのと言われますが、決して若くなくとも新たな経験は自分のためになる、そう身をもって知ったのがこの時だったのでしょう。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)6月17日版(第5504号)に掲載されたものです ー


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