四、(8)宇和島市水道局の本格始動と報告・連絡

第三章 一日でも早く

 

 発災30日目の8月5日は、翌日から一気に吉田地域全域で断水解消に向けた作業を進めるため、土地勘のある宇和島市水道局職員による最終準備の日です。

 午前9時から、給水課の施設係と給水係を中心としたメンバー10人を3班に分け、吉田地域の幹線管路の漏水調査を開始しました。中には被害の激しかった区域も含まれています。私は彼らからの成果報告をただ待つだけです。

 少しずつ少しずつ、彼らは前進を始めました。弁を開けて通水し漏水の有無を確認。漏水があれば弁を閉じて待機中の宇和島市管工事組合に修繕依頼し、終了後再度弁を開けて確認。そして次の弁…。

 給水課長の仁村には逐次報告が入ってきます。そして頃合いを見計らいながら、私は彼のところに行って状況を確認。その進展状況を誰かが図上にプロットしていたのかどうか、それは私の記憶には残っていませんが、この時は言葉の報告だけで必要十分でした。図化もケースバイケース、スピード感が必要な時には言葉だけのやりとりが適している場合もありますので。

 そういえば本庁の危機管理課ですが、発災当初よりクロノロジーと呼ばれる愛媛県の災害情報システムへの入力を進めていました。ここへの入力で、時間・場所・被害状況・画像などの情報を市と県で共有することができ、必要な支援のやり取りを円滑に行うことができます。

 宇和島市では以前からこのシステムを活用してきたのでしたが、被災初期の混乱期、例えば台風や梅雨前線で浸水被害が発生したばかりの時、この入力作業を行うのはかなり困難であるとの印象を、都市整備課時代の私は持っていました。担当課には総動員で現場確認を行うのが求められていますので。

 この平成30年7月豪雨でも危機管理課のスタンスは同様でした。でも水道局としてその時それを行うことが無理であったことは、この手記を読み進めていただいた皆さまには容易に想像していただけると思います。

 我々が代わりに行っていたことは、本庁を含む外部との連絡は全て電話、そして市民からの漏水・断水通報など内部での情報共有はメモを中心とした紙データと、局員の目に一番つきやすい廊下へ急遽会議室から移動させたホワイトボードへの書き込みでした。

 システム活用ではないこの方法、これが正解だったのかどうかの結論はここでは控えますが、少なくともあの時、これ以上のやり方は無かったと今でも信じています。

 ちなみに最近、ネットの記事にたいへん興味深いものを見つけました。それは誰もが知っている大企業、日本最大の自動車企業の危機管理についての記事です。

 同社では危機に際し大部屋の壁に大きな地図を貼り、そこへ発生事項を記した付箋を貼りつけていくそうです。そして横にはホワイトボードを用意し、情報を次から次へと手で書き加えながら、用済みのものは消していく。そして幹部や管理職への報告書はリアルタイムで作成せず、逆に大部屋を覗いてもらうことで情報を共有しているそうなのです。とても最先端企業からは想像できないこの方法、皆さまはどう感じますでしょうか?私はこの記事を読んだ時、心の中の何かが晴れていくのを感じました。あの時の我々のやり方に近い考えでしたので。

 ただもう一点思うことは、危機管理には正解が無いのではないかという事です。ある時に上手くいったことを基にマニュアルを作成しても、次は役に立たない場合が多々あります。危機は常に形を変えながら私たちに迫ってきます。その敵にケースバイケースでこちらも形を変えながら柔軟に立ち向かう、これが最も大切な事なのではないでしょうか。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)9月27日版(第5527号)に掲載されたものです ー


《無断転載はお断りいたします。》

*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました