さて、そのような対外的な一区切りは、三間地域で不自由を強いられ続けている多くの市民には全く関係ないものでした。
先が見えない状況下、最も欲しいものは情報でしょう。これは災害や事故だけでなく、どのようなものでも同様だと思います。
我々は、節目節目で報道発表を行うなど情報提供には神経を使っていました。24日には水質の推移を水道局公式ウェブサイトで公表し、そして29日には南予水道企業団によって、水質安定に向けた対策の概要が企業団公式ウェブサイトに掲載されました。ただ、三間地域の住民にとっては全く足りなかったのです。
そんな不満が我々の耳にも漏れ聞こえ始めたのがこの頃でした。
その日の午前10時、三間地域在住の増岡市議からの電話です。まず聞かれたことは、作業を進めていた音地水源から断水区域への融通がどうなったかということでした。私は報告していなかったことを詫び、そして水圧不足で融通を断念したことを簡潔に伝えました。増岡市議はいつも私の言葉を信用してくれていました。そしてその日も同様です、すぐに次の用件に移ったのですから。信用されるということはありがたく本当に幸せなことです。
次は代替浄水施設から通水中の、中山池水源の水道水に関することで、この用途に関する質問でした。我々は飲用以外は可能との情報を常に発信していたのですが、どうやらそれに疑念を抱いている住民が少なくないというのです。
私はこれまで同様に問題ないと答えるだけです。増岡市議もその言葉を予想していたのか、激励の言葉を残しすぐに電話を終えたのでした。増岡市議は、おそらく多くの地元の市民からいろいろなことを言われているのでしょう。そして、一応の確認のために私へ電話を入れたのでしょう。その翌日の昼前、愛媛県南予地方局の上岡総務企画部長から私の携帯電話にかかってきた内容を聞き、私はそのことを確信しました。
三間地域在住で以前より親交のある上岡部長によると、代替浄水施設からの水道水を風呂に使用している人から、肌が痒くなるとの感想をいくつか聞いたとのことでした。増岡市議のところにも同じようなものが届いていたに違いありません。
上岡部長は、決して私に水質についての苦情を伝えようとしたわけではありません。それまでそのような敏感肌の方々へは、診断書があれば老人施設の風呂を無料で使えるよう担当部課が手配していたのですが、それが終了するという噂が広まっていると私に伝えました。そしてそれが事実ならば、痒みを覚える人のために延長できないのだろうかとも。私はどの部局がそれを担当しているのか知らなかったため、調べてからその事実を関係者に伝えておくと回答しました
また同じ日、ペットボトル水配布を含めた応急給水体制について、もう少しきめ細やかな対応ができないかという話も届きました。高齢者にとっては応急給水所まで水を取りに行くことが困難との情報を元に、3名の市議が対応について独自に検討を始めていたのです。この災害で宇和島市は日水協などの支援を得て、おそらく他所では無いくらいの密度で応急給水所を開設していました。これ以上の対応は無理と断言できるほど。
代表格の中松副議長から私に電話が入りました。まずは三間地域の2期工事について問われました。知っている範囲で答えたあと〝きめ細やかな対応〟の話題となりました。
どのような話になるのかと身構えていたら、副議長からは水道局が高齢者対応までする必要は無いと逆に伝えられたのです。そして、必要ならば本庁職員がやれば良いとも。副議長は以前より水道事業に対する理解が深く、この時も水道局職員の余裕の無い状況を理解してくれていたのでしょう。
2名の一期目市議とともに動き始めてはいたものの、自治会毎に困窮者対策を独自に行っているなどの現状を現場にきちんと足を運んで把握し、そして適切に判断してくれた中松副議長、血気盛んなお二方を静めてくれたそうです。ありがたい出来事でしたが、先の2回の電話といい、その裏には三間地域の住民にとって余裕が時間とともに無くなっている、そのことを悟らされる出来事でした。
そういえばこの日、朝一番で市長から不思議な電話が入っていました。三間地域の応急給水所で不足しているものは無いかという内容で。私はペットボトル水と答えておいたのですが、先に市長のところへ〝きめ細やかな対応〟についての情報が入っていたのでしょう。かなりあとになってのことですが、市長には多方面から直接苦情などが入っていたと、我々にも伝わってきましたので。そんなことはおくびにも出さなかった市長、我々を心配させないよう配慮してくれていたのでしょう。感謝!
ー この記事の原文は水道産業新聞2022年(令和3年)2月7日版(第5558号)に掲載されたものです ー
《無断転載はお断りいたします。》
*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
コメント