13時頃、吉田浄水場の被災状況写真が局に届きました。浄水場全体が土砂に埋もれています。ところどころは無傷の部分もありそうでしたが、これを再建するには一から造るのと代わらないと写真を見た全員が思ったはずです。
写真を撮影した南予水道企業団の職員は、大雨に備えて未明から吉田浄水場に向かっていました。到着直後のことです、バリバリという雷のような轟音に全身が包まれ、土砂崩れを直感した彼は、大急ぎで最も近い建屋に逃げ込み、2階の下流方向へ避難したとのことです。建屋の上流部には、土砂とともに押し寄せた流木が窓を突き破り、その奥深くまで土砂が流入しました。一歩、その言葉通り一歩間違えば、この職員の命もどうなっていたかわかりません。また、彼は周囲が土砂などで埋まった浄水場から命からがら脱出し、通行が困難な帰路を歩き、そして地元住民の協力も得て貴重な状況写真と共に無事帰還しました。自衛隊在籍の経歴を持ち、また、現在も予備自衛官として年に一回の訓練に参加し続けている彼だからこそ、自らの命を守りながらも任務を遂行できたのかもしれません。
なお、浄水場の上流には土石流対策として砂防ダムが4カ所設けられていましたが、土石流はそれを次々に乗り越えてきたのです。リアス式地形で市域の7割以上が森林の宇和島市では、浄水場の大半が吉田浄水場と同じような谷部に立地しています。砂防ダムに頼らない水道施設の土砂対策のあり方が、今後の大きな課題となってしまいました。
ー この記事の原文は水道産業新聞2020年(令和2年)9月28日版(第5444号)に掲載されたものです ー
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