これら展開状況を報告した13時30分からの本庁災害対策本部会議では、産業経済部から大きな報告がありました。水産業関係者によって、被災地へ生活雑用水を送り届ける支援が始まりそうだというのです。
浸水被害等で土砂が流入した家屋を再建するためには、土砂を撤去したのちに水での清掃が不可欠です。断水解消を待っていては誰も自宅へ帰ることができません。飲用水は命の水ですが、生活用水は言葉通り人が人らしく生きる活動に欠かせないものです。平時はこの両方を水道局が届けるということは言うまでもありませんが、災害時にはその生活用水を届ける余裕など全くありません。
宇和島市は魚類等の海面養殖を中心とした水産業が盛んなのですが、水産業関係者が自分たちの既存システムを使って生活雑用水を断水地区に提供してくれるというのです。
魚類養殖では、大きな水槽等を抱えた海上運搬船が餌を沖の生けすに運び、また魚を岸へと運びます。そこからは活魚運搬車が全国の市場へ陸路で運搬することとなるのですが、そんな宇和島では当たり前の光景を応用します。
まず、宇和島港坂下津岸壁に設置してある給水栓、これは航海時の水道水を船舶に充水するための施設ですが、そこから海上運搬船にたっぷりと充水し、海路無傷の吉田地域の港に向かいます。岸で活魚運搬車に水を移し替えて給水拠点に準備した組み立て式水槽に充水します。そこから地区住民が好きなだけ持って行くという手順ですが、これは海面養殖が盛んな地方でなければ不可能な方法で、今後は〝宇和島方式〟とでも呼べばいいのではないかと私は思いました。
なおこの約1年後、宇和島市の3離島に水道水を送る海底送水管が、何らかの外力で破断されるという事故が起きました。断水人口が比較的少なかったことからこの時の飲用水はペットボトルを送ることで対応しましたが、生活用水供給に向けた漁協の進言もあり、再びこの〝宇和島方式〟が出番を迎えることとなったのです。
7月豪雨の際と同様、宇和島港坂下津岸壁の給水栓から活魚運搬船に充水し3離島の岸壁まで航行します。そして接岸し、岸壁近くに受水槽がある集落ではそこに直接充水します。無ければ丘の上の配水池へ消防ポンプを重連して送ります。あとは既存の水道システムを使って、生活用水を普段同様各家庭の蛇口から出していました。そのようにして復旧までの2週間弱を何とかしのいでもらったのです。
そのような〝宇和島方式〟での生活用水供給システムをこの短い時間で作り上げてくれた水産業関係者には、心から感謝したいと思いました。また、協議段階から関与してくれた、三宮水産課長を始めとする水産課の面々にも拍手です。なお後日聞いた話によると、水産課に働きかけをしたのは榊総務課長だったそうです。具体案を伴ってのことだったかどうかは別として、水産技師から転身してこの役職で奮闘している彼にも拍手。
災害対策本部会議では、全職員を対象に災害対応業務・出張などでの自家用車使用を可能とする特例が決まったことも報告されました。何をするにも自動車が必要ですが、機動力を上げようとすると公用車だけでは全く足りません。公費によるその費用負担を含め、榊課長率いる総務課も少しずつ目に見える対策を進め始めました。
ー この記事の原文は水道産業新聞2020年(令和2年)10月22日版(第5449号)に掲載されたものです ー
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