一、(9)吉田での新たな試み

第三章 一日でも早く

 その直後、給水課長仁村からの報告です。

 吉田地域の中心部は北小路配水区、その北小路配水池への送水管が北隣の長谷配水区の配水管と接していることに目を付けた給水課は、いつの間にかその双方を仮設の連絡管で繋げていました。そしてそれまでも有効に他配水区への融通と漏水調査に活用してきた長谷配水池から、配水池同士の高低差だけで少しずつ北小路配水池へ充水を続けてきた結果、その水位がこの日の深夜には9割へ達する見込みとなったそうなのです。

 そのため深夜23時から明朝まで、区域を区切りながら吉田地域中心部の漏水調査を進め、また、翌日夕刻には1時間程度配水区一斉の試験通水を行う体制が整ったと言うのです。

 この区域には、吉田地域の司令塔、山上支所長が陣頭指揮を執る宇和島市吉田支所や、併設する地域最大の避難所となっている吉田公民館、そして市立吉田病院や吉田愛児園等々、多くの公共公益施設や住居があります。代替浄水施設から豊富な浄水の送水が開始されれば、一分一秒でも早い断水解消にこぎつけたいと願う給水課職員たちの、土地勘を活かした工夫でした。この夜の試験終了後も、3日間のインターバルで充水・漏水調査・試験通水を繰り返していきます。深夜の作業を自ら進んで行おうという職員達、自らも被災している彼らには、健闘への祈りと健康への心配の気持ちで一杯でした。

 その30分後、今度は仁村より、清水議長からの問い合わせに関する報告です。

 宇和島市には宇和島地域と吉田・三間地域、そして津島地域のそれぞれの配水区同士を連絡する送配水管がほぼありません。〝ほぼ〟と言うのは、吉田地域最南部で宇和島地域と接する知永配水区から、宇和島地域の須賀川系配水区北西端の高串配水区に向けた、細い連絡管が一本だけあるからです。

 高串配水区内では、以前流量が異常に増大したことがありました。原因特定が難航したことで、その特定作業と修繕作業時に地元への影響が最小限となるよう、片方向限定で最低限の管を布設した時の名残がこの連絡管でしたが、このことを知っている清水議長は、逆に宇和島地域から吉田地域方向へ流せば、知永配水区と北隣北小路配水区の一部分だけでも、今の断水が解消できるのではと提案してきたのです。

 私もその案は考えました。ただ残念ながら、高串配水区の増圧ポンプではその能力が不足しているそうです。増圧ポンプを能力の高いものに交換したくとも、納期を考慮すると代替浄水施設の完成が先になりそうです。仁村が事情を説明すると議長は納得したとのことでした。なお、仁村がこの日深夜から始まる北小路配水区での作業、特に翌日の試験通水の件をこの電話を借りて清水議長に伝えたのは言うまでもありません。ただし、深夜作業の情報が広まれば漏水調査に支障が出ることから、オフレコ前提でしたが。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)4月5日版(第5488号)に掲載されたものです ー


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