二、(11)某県よりの申し入れ

第三章 一日でも早く

 

 水道局に帰りしばらくした10時過ぎ、副市長から電話です。実はこの数日前から、某県庁が庁内各部局から募った職員を給水所運営要員として派遣し始めてくれていたのですが、その支援隊から苦情が入ったというのです。給水所の運営に関する情報が水道局側から何も伝わってこないと。

 その頃我々が欲しかった支援は「頭」ではなく「手・足」でした。お願いしたことを半ば機械的にやり続けるマンパワーです。ただ支援者側もそうはいかないのは理解できます。毎日の状況を本部組織へ報告しながら、増員や減員などの判断を下していく必要があるでしょうから。

 でも我々にそんな余裕はありません。実はこの某県一次隊のリーダー、到着当初から独自の運営をされていました。例えば給水所運営要員の休憩に関して言えば、宇和島市の職員ならば休憩は各自が適宜短時間で行っていたところを、最初から3交代制でシフトを組むなどなのですが、我々はトータルの人数を割り振ったギリギリの人数での給水所運営を計画していたので、変更を余儀なくされ戸惑ったのが正直なところでした。

 支援側の事情、そして何より我々支援してもらう側は文句が言える立場ではないということをわかってはいたのでしたが、余裕の無い私は副市長に言いました。「〇〇県の支援はそりゃあ嬉しいけれど、我々のことも考えて欲しいですね」と。

 当然ながら副市長はこの「訴え」にカチンときたのでしょう。私に説教のようなことを言いかけたのでしたが、大人の副市長、我々が置かれている状況を瞬時に天秤にかけ説教のトーンを落としてくれたのでした。

 ちなみにこの某県、第一次支援隊に続いて第二次・第三次と支援を継続してくれ、真夏の暑い中で応急給水所の運営を続けてくれました。第一次隊のリーダーから発せられた苦情の30分後、すぐさま情報提供を行い軌道修正を図ったのが功を奏したのか、その後は辛抱強く我々に寄り添ってくれました。

 支援者側からの苦情に対し反論するなんてあり得ないとお感じの皆さま、これが災害で支援を受ける者の本音です。病人が次第にわがままになっていく様子を連想させますが、不届きとも取られかねないこの受援者のわがまま、敢えて記させていただきました。

 なお、副市長との電話を終え某県に情報提供を行うまでの間に辻田総務部長からも同内容の電話が来ました。落ち着きを取り戻していた私は、この同級生にも同じ話をすることに…。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)6月7日版(第5502号)に掲載されたものです ー


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