私は興奮を抑え、プロボックスを運転し水道本局へ戻りました。次の一手に備えなければなりません。
帰局してみると、給水課には管理職以外ほとんど見当たりません。ほぼ全員で三間地域の現場で配水管理を行っているのでしょう。実際、則配水池から戻る途中で弁操作や漏水調査にあたっている職員達の姿をあちこちで見かけましたので。私は各々にねぎらいの声を掛けたかったのでしたが、まだ通水は始まったばかりです。何が起きるかわかりません。走行中の車中から声を掛けるのにとどめたのでした。
シンプルな配水系統の三間地域ですが、一部加圧ポンプによって配水している区域もあります。そのため区域全域に水が行き渡るのは夕方と見込んでいました。
まず成家配水池から遠く標高が高めの美沼荘から水が出始めたと連絡が入りました。11時50分、通水開始から2時間弱のことです。ということは三間地域の中心部で三間支所のある宮野下地区や、道の駅のある務田地区あたりは既に出始めているはず。この成家配水区、そして同程度の配水面積の元宗配水区は順調なら間もなく行き渡りそうだと、給水課長の仁村と確認し合いました。
その頃知事は市長と共に、美沼荘からさほど離れていない地域づくり推進事業所「もみの木」で水栓から水が出るのを待ち構えていました。多くの報道陣を引き連れ、当初予定していた道の駅ではなくこの「もみの木」で。しかし、待てど暮らせど水は来ず…、市長公室の職員からはそのような問い合わせが入ります。私と仁村は首をかしげます。道の駅を含め辺り一帯ではとっくに水が出ています。『何故…?』仁村は現地にいる職員に電話し、状況を確認させました。
13時20分、原因が判明しました。量水器から施設に至る給水管の露出部分が損傷していたのです。14時20分の成家・元宗両配水区全域を皮切りに、加圧ポンプでの配水区を中心とした高台を含め、この日の17時までには見込み通り三間全域で断水が解消されたのでしたが、知事・市長・報道陣が待ち構えるこの一戸だけが、給水管の修繕が終わる数日後まで水が出なかったのでした。このことは苦笑いせざるを得ない実に皮肉な出来事でした。地元紙からは全世帯断水解消と表現して良いかとの確認電話が入り、〝ほぼ全世帯〟が望ましいと答えざるを得ないなど、もどかしさが残りましたが、これで三間地域のほぼ全域に、やっとやっと水を届けることができました。
ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)9月13日版(第5524号)に掲載されたものです ー
《無断転載はお断りいたします。》
*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
コメント