四、(6)仙台市(九)~市長~

第三章 一日でも早く

 

 一応の区切りとなった吉田支所訪問を終え、燃え尽きかけの感覚に包まれながら14時、私はプロボックスを停めている駐車場へ向かいました。

 その時でした。

 仙台市水道局の公用ワゴン車が私の横へ近づき、助手席の窓から皆野課長の精悍な顔が現れ、直後、後席スライドドアが開き一人の女性が立ち止まった私の方へ近づいてきたのです。皆野課長もすぐに降車し、その女性のことを紹介してくれます。

 その方は仙台市長、東北放送のアナウンサーから衆議院議員を4期12年勤めたのちに、2017年に市長選に出馬し初当選した、経歴だけを読むと非常にやり手の私より3歳年上の女性です。

 でもこの時私はその経歴等々全く知りません。ただ皆野課長から紹介された、私をねぎらう優しいお姉さんです。私の張りつめていた心の糸は瞬時に切れました。そしてお礼を伝えながらも涙がボロボロと、本当にその表現通りボロボロと顔と眼鏡の間をすり抜けて地面に落ちていきます。

 私は2人兄弟の二男のせいで女きょうだいには憧れもありましたが、本当にこの時は仙台市長が姉のように思えたのです。理系から建設方面という男社会にずっと身を置いていた私にとって、今回の災害対応の一応の区切りとも言えるこの日この時に、いつもと違った優しさに包まれて涙腺が壊れたかのようでした。

 仙台市長も私につられたのか、私と握手したまま涙をボロボロと流しています。あとで聞いた話では、私と別れ次の目的地に向かう途中も涙を流し続けていたそうです。何とありがたいことでしょう。

 この出来事、伊達つながりがあるからこそのことだったのかもしれません。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)9月23日版(第5526号)に掲載されたものです ー


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