五、(3)解消されない局外との大きな温度差

第三章 一日でも早く

 

 さて、この日も18時からの本庁災害対策本部会議へ出席です。開始直前、隣席の滝本消防長が私に小声で話しかけてきました。吉田・三間両地域で、消火栓からの放水試験を行いたいと言うのです。

 発災後、要所要所で我々を助けてくれていたこの一つ年上の人格者に対して、不届き者の私は反射的に「こらえて下さいよー」と言ってしまいました。『しまった』と言い直そうとした時、滝本消防長は逆に私へ詫びの言葉をかけていました。

 そのことで更に冷静になった私は、必要水量の7割程度で不安定な送配水の現状を説明し、放水試験によって濁水が発生した場合の致命的影響を説明しました。滝本消防長はすぐに理解してくれました。そして私は更に水圧の情報を提供します。三間地域では全く同じ配水システムを使っているため何ら変わり無いこと、そして、吉田地域でもほぼ同様のため水圧に変化はないという事を。滝本消防長は改めて試験実施の撤回を私に伝えました。良かった。

 18時、いつものように会議は始まりました。本部長(市長)と副本部長(副市長)からの一言は、これまでの冒頭から会議の最後へとそのタイミングを移していましたので、まずは各部局からの報告です。

 私からは、この日夕方までに多くの支援隊のおかけで、一気に断水解消が進んだことを報告したのでしたが、同時に応急給水体制の維持についても引き続き依頼しました。前日よりも大きく強い口調で。それは何故か…。

 各部局長からの報告は、その頃になると前日から変化したことに限定していました。時間の無駄を省くため、避難者人数を始めとした数値報告は事前調査の上で表配布にとどめるなどして。

 総務部から始まり市民環境部・保健福祉部、そして次が商工観光課や水産課などで構成される産業経済部でした。野際産業経済部長は私より一つ年上です。その彼からは耳を疑うような言葉が発せられました。同部の水産課が、水産業関係者の力を借りて実施している生活用水の応急給水を終了するというのです。

 三間に続く吉田地域での通水開始で、全域での断水解消は時間の問題と誰の目にも映っていました。ただ、特に吉田では気の抜けない状況が続いています。そのためこの場で私は、毎日のように応急給水体制の維持を訴え続けていました。

 それにもかかわらずのこの発言、瞬間湯沸かし器のスイッチが入りました。私は敬語を一応使っていますが大きな声で反論です。維持を依頼していたではないかと。それに対し、「え?そうなの」と私の感情を逆なでするような回答です。その後のやり取りをここに記すのは控えますが、国や県のリエゾンを始めとした多くの市職員以外の面々が集まるその場で言い合うのは、流石にふさわしいものとは言えません。副市長が言葉を割って入り、お互い取り敢えずその場は収めました。

 私がその日の水道の状況を報告した番はその直後でしたので、血の上った時の口調となっていたのでした。

 会議終了後第2ラウンド開始です。言うだけ無駄と思えたこの野際部長を無視して帰局しようと考えていましたが、彼が同列下座にいた私に近づいてきます。私は立ち上がり彼の目を離しません。彼はどうすれば良いのかと、子供でもわかるようなことをきつめの口調で私に聞いてきます。呆れ果てて開いた口が塞がらない私に対し言葉を続けます。給水体制の維持が本当に必要なのかと。私は一言「当たり前でしょう」。イラつきが最高潮に達してもお互い流石に年寄りです。それ以降は数回の言葉の応酬で終わりです。野際部長が担当の水産課と調整するということで収め、それでお互い別れました。

 相対する二人の周りは、他の部局長が取り囲んでいました。困った事になれば止めに入ろうと。その中には私より一つ年上で、野際部長と同い年の中松議会事務局長もいました。今回の水道局の動きに肯定的な中松事務局長、この時も同様でした。相対していた二人が離れた直後私の前に立ち、まるで二人を引き離そうと言わんばかりに私に話しかけてきたのです。長く断水を強いられていた当事者として、不安定さを補完する応急給水体制の維持に理解を示してくれました。ありがたいことです。熱くなった私の頭を冷ましてくれました。ただ会議室から出たのちも、野際部長が年下の私の言い方を非難する声が聞こえてきます。中松事務局長のせっかくの計らいが無駄になりそうでしたが、今度は同い年で腐れ縁の辻田総務部長が私をなだめます。そして大事に至る前、お互いの部局に帰ったのでした。

 なお翌朝、野際部長へ電話を入れこの日のことを形式的に謝りました。振り上げた拳は年上からは収め辛い、私は割り切って意地を捨て、言いたいことをグッと飲みこみ災害対応の円滑化を優先することしたのです。野際部長からも、いつもの軽い調子で詫びの言葉が返ってきました。それで手打ち、でも…。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)10月7日版(第5530号)に掲載されたものです ー


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