発災34日目、8月9日木曜日の朝一に私の部屋の電話が鳴りました。電話の向こうは、生活用水供給拠点の運営をしてくれている三宮水産課長です。その生活用水の需要がほとんど無くなっている状況から、全ての拠点を閉鎖してはどうかとの打診でした。
確かに両地域で通水を開始してからは、飲用の安全宣言は出せないものの関係者の尽力で何とか安定的な送配水が行えています。また、配水量にもまだ余裕があります。必要になれば供給拠点を迅速に再開設するとの三宮課長の申し出も考慮し、私は同意しました。現場の声を重視する私は、通常はそれを任せている仁村給水課長へまず確認するのですが、この件については事後確認で問題無いと判断したのです。
さて、この電話を終えて間もない9時過ぎ、今度は市長からの電話です。告森川からの水道用水取水増量について鬼北町内の水利権者からの同意が取れたと、その仲介を行ってくれている同町々長から電話連絡があったそうなのです。そのため市長は自ら地元へ挨拶へ出向かうことを考えているのでした。ただ、その前に私の考えを確認するためわざわざ電話を入れてくれたのです。
仮に代替浄水施設からの水が検査に合格しても、何が起きるか分かりません。そのため私は市長へ一任しました。
なお融通の通水開始は、こののちの諸事情により、結局8月16日にずれ込むこととなりました。そして融通対象地域への周知方法やその日時についての詰めも急いでいたのでしたが、融通元・融通先各所の給水栓で状況を確認しながら慎重に通水作業を進めていたにもかかわらず、翌17日、融通元となる音地配水区内の一部で水圧の低下が発生し、逆に断水発生の可能性が高くなってきたことから、作業を断念せざるを得なくなったのでした。7月20日から多くの労力を割き、また広範囲に及んだ水利関係者の協力もあって実現したこの作業は、わずか1日でその終わりを迎えたのです。
残念な思いとともに別の感情も湧いたのでしたが、自治体トップの2人が直接動くなど、可能性を追求したからこそ見えた結果です。〝無駄〟の文字はあてはまりません。この経験は、いずれどこかで何かの役に立ってくれることでしょう。
ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)11月1日版(第5536号)に掲載されたものです ー
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