二、(3)吉田地域でのジェオスミン値の上昇

第四章 新たな闘い

 ただその前日、別の問題がまた一つ発生していました。飲用制限が解かれた吉田地域で、水道水からカビ臭がするとの通報が入ってきていたのです。

 15日13時20分、給水課長の仁村から私へその点についての報告がありました。ジェオスミンの値が急上昇しているというのです。原因はまだわからず、南予水道企業団が調査中であるということも。

 その10分後、松山市の日吉課長も交えた局内協議を私は招集しました。そして、企業団への対応の働きかけやペットボトル水配布に向けた準備を急ぐとともに、秒読みだった市立学校の応急設置加圧貯水槽の撤去先送り要請、また放送による地元への状況説明文作成などが、間髪入れず慌ただしく進められたのです。

 一難去ってまた一難、これも災害時には付きもののようです。

 16時10分、南予水道企業団から仁村へ情報が入りました。どうやら水源となる野村ダムでの、急激な藻の大量発生が原因のようです。

 野村ダムでは7月7日の豪雨下、クレストゲートからの緊急放流を行い、その結果下流域で多くの犠牲者を伴う被害が発生しました。野村ダム管理事務所は我々の想像を遙かに超える大変な状況でしょう。我々がその時点で詳細な説明や対応を求めるのは流石に酷と言わざるを得ません。

 原水の改善が望めないのならば、受水以降で対応するしかありません。南予水道企業団による活性炭槽の追加設置と、高ジェオスミン下での飲用可否についての判断を急ぐこととしました。

 活性炭槽は2日後の8月17日中には設置が可能のようです。ただし、カビ臭がする水が入れ替わるには最大一週間程度必要です。また、飲用については問題が無いと我々は判断しました。念のために厚労本省水道課へ確認すると、過去にジェオスミンの基準値超過で飲用制限を行った例は無いとのことです。

 その結果、放送によるカビ臭の情報提供と注意喚起、そしてペットボトル水の配布でこの事態を乗り切る方針案が決まり、市長への電話報告後の19時30分には吉田地域全域へ放送が実施されました。

 ところで、カビ臭がピークを越えた数日後の夜、こんなことがありました。宇和島市水道局では、10年の常温貯蔵が可能なペットボトル純水を備蓄してあります。吉田地域でのカビ臭が発生した時はその貯蔵期限間近というタイミングでしたので、それを配布用に供出したのでした。その際、吉田地域内のカビ臭発生区域で採水したサンプル水と柿原水道本局の水道水、そしてその備蓄用ペットボトル純水のテイスティングを局職員で行ったのです。

 純水を口にしたことのある皆さまなら、結果がすぐにおわかりになるかもしれません。ほぼ全ての職員が美味い順に並べたのは、1位が水道本局の水道水、2位がカビ臭発生区域の水道水、そして3位が純水だったのでした。ちなみに、職員によってはカビ臭を全く感じない者もいました。

 味覚・嗅覚は人それぞれ、そして含有する多くの物質で全国・全世界の水道水の味もまたそれぞれ、このカビ臭発生問題は、私に水の奥深さを更に感じさせてくれるきっかけとなった出来事でもありました。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)12月9日版(第5545号)に掲載されたものです ー


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