一、(2)最悪の情報

第一章 浄水場喪失

 局に到着してみると、植光と、給水課長で水道技術管理者を兼務する仁村がいました。仁村は私の2つ年下で中学テニス部の後輩です。とは言ってもあれから45年、お互いに歳を取りました。

 仁村と植光は他の職員に動員の連絡を既に行っていたようですが、まだ到着した者はいなかったと記憶しています。

 すぐに仁村に状況を聞きました。「吉田浄水場が壊滅的な被害を受け、復旧はとうてい無理…。」との、南予水道企業団からの情報を伝えてきました。それと同時に、吉田地域・三間地域の断水は回避できないという最悪の情報についても…。

 状況写真などは届いていませんが、吉田浄水場詰めの南予水道企業団職員の話では、何もかもが土砂に埋もれているとのことです。その瞬間、水道技術に乏しい私でも『これまでに無い規模と期間の断水を余儀なくされる。』と予測し、次に向けての行動に頭を切り替えました。

 身体は二日酔いのために水を欲しています。私はペットボトルの水を飲み、空いたら蛇口から補充してまた飲みの繰り返しです。そんな私は断水に向けての放送文などについての指示を出します。

 その後、職員が続々と参集し始めたため至急の応急給水所の設営指示です。早くしなければ、私のように水を飲みたくとも飲めなくなってしまいます。

 なお現在の宇和島市は、平成17年の8月1日に1市3町が新設合併をして誕生した新しい市です。宇和島地域(旧宇和島市)を中心に北西部に吉田地域(旧吉田町)、北東部に三間地域(旧三間町)、そして南部に津島地域(旧津島町)が位置しています。

 被災した吉田浄水場は南予水道企業団の施設で、北隣りの西予市にある野村ダムの原水を同浄水場で受けて浄水し、そこから宇和島市水道局が吉田・三間両地区の6568戸、1万5317人の市民に向けて送配水していました。

 吉田地域では自然流下で4カ所の配水池に送られ、地区によっては更に2次・3次の配水池へ送られます。一方の三間地域は浄水場との間を山で隔てられているため送水ポンプが必要となり、尾根の調整池経由で3カ所の配水池に送られます。

 ちなみに宇和島市の上水道は一部の地下水を除き、ほとんどがダムの水で賄われています。野村ダム以外では宇和島地域に須賀川ダム、津島地域に山財ダムがあり、その3つのダムによってやっと必要水量が確保されているのです。そのため、固定資産の減価償却費が水道経営に重くのしかかり、残念ながら水道料金は県内で最も高い水準で推移しています。

ー この記事の原文は水道産業新聞2020年(令和2年)9月14日版(第5441号)に掲載されたものです ー


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