四、(1)三間通水式

第三章 一日でも早く

 

 さていよいよ8月3日金曜日の朝を迎えました。発災後4週間のこの日は、午前10時から三間・則配水池で通水式が行われます。既に代替浄水施設からは浄水の送水が開始されており、成家配水池と元宗配水池を加えた3配水池全てが満水に近い状態で準備万端のはずです。

 私は自らの運転で単身現地へ向かいました。開式の1時間ほど前に到着した時には、県道の通行止めバリケードは撤去され現地横まで乗り付けることができそうでした。ただ、既に上りの大S字カーブの二つ目手前あたりには、道路拡幅部分への駐車が目立っています。私もその辺りに車を停め、歩いて残り少しの距離を現地に向かいました。

 現地には浄水場等の第三者委託をしている社会インフラ事業関連企業の社員に交り、宇和島市水道局の担当者も既に到着しています。私はネットフェンスの小さな門扉から敷地に入り仕切弁のある狭いスペースへ進みました。蜂の巣は駆除済みで草刈りも綺麗に終わっていて、あとは弁を開けるのみです。

 その手順の確認を含め雑談をしていると、実際に弁を回す市長、お忍びという立ち位置の知事、そして水利組合長が到着。その後進行の確認などを事前打ち合わせし、開式まで間もなく30分となった頃、私は敷地から出て、徐々に増えてきている報道陣のところに向かいました。私が近づくと、顔なじみを含めその多くが近寄ってきます。それまでの会見などで既に私の顔は知られています。

 雑談をしようと行ったのでしたが、いつの間にかぶら下がり取材のようになってきました。この後の通水式では弁を開けた後に市長による説明と挨拶、また知事を交えての会見が行われる段取りとなっています。そしてそれに続いて私と南予水道企業団による細かな質疑応答が続くのですが、ぶら下がりでの報道各社からは、そこで出るであろう質問も多く受けることとなったのです。事実、正規の質疑時間でのやり取りは非常に少なく、クリアファイルに挿入し作成していた図面などで説明を行っていったそのぶら下がりで、ほとんどの用は既に終えていたのでした。

 進行が肩透かしにはなったのでしたが、報道陣と馴染みになることは事を進めるのに大いに役に立つと、私はこの時改めて思ったのです。

 10時、三間則配水池でついに通水式が始まりました。二つの弁のうち片方を市長一人が、そしてもう片方を知事と水利組合長が共同でゆっくり開けていきます。濁水の発生を極力回避するため、事前打ち合わせのとおり本当にゆっくりゆっくりと。

 横で見守る職員たちに促されて開栓を終えた頃、知事は大きな声を上げました。「水よ届けー!」と。知事はやはり生粋の政治家です。自然に出たと回りの報道陣に感じさせるそのシンプルな言葉は、ここぞというタイミングを逃しません。それが実際にどうだったのかはわかりませんが、長い長い政治家人生で自然に身についたのは間違いないと私はその時感じました。

 元松山市長を父に持つ知事は私と同学年。20代で県議に初当選しましたが、任期途中で挑戦した衆議院選に敗退するという挫折を味わいながらも、次の衆議院選で初当選しました。そしてその次の衆議院選で再度落選という屈辱を経て、39歳で松山市長へ転身。3期目の途中で愛媛県知事選を制し、執筆時現在その3期目を務めています。政治家になる前は某大手商社に所属していましたが、そこでは私と小・中・高を同じ学校で過ごした旧友が同僚だったそうです。そのことが私に何のメリットももたらせてはいませんが…。

 さて配水の方はというと、どうやら弁を少し開け過ぎていたようです。職員達が苦笑いしながら調整をしていました。

 私は手順通り報道発表です。南予水道企業団の竹本事務局長と所定の場所に向かい、準備しておいた資料を配り説明を行いました。そして続いて質疑応答なのですが、前述のとおりぶら下がりでの対応で用済みに近い状態でしたので、あっという間に一連の通水式は終わったのでした。

 私は安堵感・達成感、また高揚感に包まれていました。会場に詰め掛けていた多くの仲間、松山市公営企業局・仙台市水道局・横浜市水道局、そして厚生労働省水道課のみんなから祝福を受け感激し、大きな声で感謝の言葉を発しながら握手・ハグで喜びを分かち合いました。

 これでやっと水を届けることができる。次は吉田だ!

 この時点で、吉田での配水は翌日8月4日に開始できることは確実となっていました。ただ、まだ時刻の詰めを行っている最中でもあったのです。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)9月9日版(第5523号)に掲載されたものです ー


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