二、(4)愛媛県衛生研究所とトリクロロ酢酸

第四章 新たな闘い

 吉田地域でのジェオスミン値上昇が報告された8月15日、一方の三間地域でも望まなかった水質検査の結果が出ていました。

 水質検査の実施は、それまで全て南予地方水道水質検査協議会水質検査センターが担ってきましたが、8月14日採水分からは、愛媛県の全面協力の下で愛媛県衛生研究所が加わっていました。執筆している新型コロナ禍の今は、PCR検査の実施とともに愛媛県内での感染状況分析の中枢部とも言える組織です。水質検査センターは、南予地方の他水道事業体から依頼される通常検査にも断ることなく対応しなければなりません。そのため、水質の微妙な変化を見逃さないよう連日の検査を依頼したくとも、マンパワーも機器も到底足りない状況だったのです。

 その衛生研究所から速報値が届きました。クロロホルムは基準を満たしています。ただ…、今度はトリクロロ酢酸が超過しているのです。宇和島から松山へサンプルを送る際、輸送の影響を極力抑えるために低温状態を極力保とうとしていたのですが、どうやら時間の経過とともにクロロホルムからトリクロロ酢酸へと変移したらしいのです。今でもそのメカニズムを理解しているわけではありませんが、その時の私には更に知識がありません。私の頭の中は『いったい何が起きているんだ』と混乱するだけでした。

 翌16日に届いた衛生研究所からの翌日分の速報値では、今度はトリクロロ酢酸に加えジクロロ酢酸も基準超過となっていました。検査を進めていけばいずれ基準値を下回る結果が出てくるかもしれないとの、当初抱いていた私の甘い素人考えは完全に打ち砕かれました。

 その日午前10時20分、三間地域が地元となる増岡市議からの電話が入りました。三間地域の水質の状況と、飲用制限解除の見込みについての問い合わせでした。ただ他の市議同様、私と水道局の置かれた状況を理解した上での気遣いを伴った口調です。

 増岡市議は、地元の多くの市民から問い合わせを受けているようでした。ただ私も正直に答えるしかありません。クロロホルムなどの超過はわずかなものの、基準を満たしていないことから飲用制限は解除できない。そしてその見込みはまだ具体的に立っていない、と。また抜本的対策として、南予水道企業団が元の野村ダム原水への切り替えに向けた工事を進めているものの、完成は早くて9月末の見込みだということとも。

 増岡市議は私からの答えを事前に予想していたのか、私の対応への謝意と激励の言葉だけを残し電話を切りました。

 その2時間後、今度は前市長からの電話です。先ほどの増岡市議とほとんど内容は同じで、私は同じ答えを繰り返すことしかできません。そして前市長の反応もまた同様に…。

ー この記事の原文は水道産業新聞2021年(令和3年)12月13日版(第5546号)に掲載されたものです ー


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