(2)肩書

終章 みちしるべ

 なおこの行脚では、大半をアポなし訪問としていました。それにもかかわらず、かなりの確率でトップにお目にかかることができたのでしたが、惜しむらくは、九州行脚の日程が福岡市で開催された日水協全国会議と完全に重なっていたことでした。

 そのことを知ったのは大分市上下水道局を訪ねた時のことです。美園事業管理者との面談は実現したのですが、同氏はまさにその時出張に向かうところでした。そしてその先は福岡市、そこで日水協全国大会が開催されることになっていたのです。何という間の悪さだと私は自分を罵りました。そして美園氏が勧めてくれた福岡行きへの行程変更に心を動かされたのです。確かにその会場に行けば、一箇所で多くの事業体トップにお目にかかれるかもしれません。一時は本気で行き先変更を考えた私でしたが、結局その後の行程を変えることはありませんでした。人に会うというよりも、どういう場所から宇和島まで赴いてくれたのか、その土地の空気、そして宇和島との距離をこの身で感じたかったのです。

 結果的にはこの選択が正解となりました。14事業体のうち10事業体は、他用務との兼ね合いなどによって組織トップの全国大会出席を見合わせていたのです。最終的に面会が叶ったトップは8名でしたが、アポなしにしては上出来だったと思います。しかも、不在であっても別の皆さまへ謝意を伝えることができたことですし。

 ところで、訪問先で私は窓口近くの方に声を掛け、そして名刺を渡しながら突然の訪問を詫び、どなたかに謝意を伝えたいとまずはお願いしていました。その時応対してくださった方の反応は、一様に『うそ…』『突然宇和島の水道局長が来た…』的なものでした。

 私はそれまで自分がどんな役職であろうとも、その肩書きを最前面に押し出して仕事をしたという意識がほとんどありませんでした。水道局長になってからも同様で、どちらかと言えば自身の肩書というものを軽く見ていたように思います。ただ行く先々で感じさせられたのは、逆にそれが持つ重みの部分だったのです。半ば意識して自分の周りの垣根を低くしていた私は、もしかして少数派なのかと思えるくらいに。

 どちらが良いのか私にはよくわかりません。軽すぎると訪問先に迷惑をかけるかもしれません。逆に重みを意識しすぎると、フットワークまで重くなってしまうような気が私にはします。何事もバランスなのでしょうが、それが実は一番難しいことなのかもしれません。

 なおここに、備忘録を兼ねてお礼行脚での訪問先を記させていただきます。

 訪問順に、愛媛県内は松山市公営企業局・愛媛県庁・今治市水道部・新居浜市水道局・四国中央市水道局、そして愛南町水道課。四国内他県は四万十市上下水道課・高知市上下水道局・室戸市水道局・阿南市水道部・小松島市水道部・徳島市水道局・鳴門市企業局・吉野川市水道部・つるぎ町水道課・美馬市水道部、そして香川県広域水道企業団。東日本は横浜市水道局と仙台市水道局、そして厚生労働省水道課。九州は大分市上下水道局・杵築市上下水道課・日田市上下水道局・菊池市水道局・平戸市水道局・諫早市上下水道局・天草市水道局・熊本市上下水道局・伊佐市水道課・姶良市水道事業部・都城市上下水道局・宮崎市上下水道局・佐伯市上下水道部・臼杵市水道事業所。そして岡山県の瀬戸内市上下水道部・岡山市水道局・総社市環境水道部・倉敷市水道局で、合計38箇所でした。

ー この記事の原文は水道産業新聞2022年(令和4年)2月28日版(第5563号)に掲載されたものです ー


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*登場する人物や組織に対する私の意見・感想は、個々の評価を意図したものではありません。また、臨場感を伴わせて全容をお伝えするために人名を記載していますが、文面に対する人それぞれの捉え方に配慮し全て仮名としています。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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