三、(3)5人の同級部長

第四章 新たな闘い

 13時少し前、私は本庁の市長室秘書窓口横の応接ソファーに座っていました。13時から災害復興本部事前会議が市長室で開催されるのですが、その時間調整のためにです。

 会議に招集されたのは災害対策本部員で、災害対策本部長の市長と災害対策副本部長の副市長、そして私を含めた部長級職員のうちの該当者に事務局が加わります。この豪雨災害では、水道を含めた都市基盤、そして生活基盤や産業基盤など、市の全ての組織が取りかからなければならない被害が発生しました。しかも主力産業の柑橘栽培は、まず園地の造成から着手しなければならないなど、復興にはかなりの年月が必要となってきます。その対策会議を立ち上げる前、その骨子を確認することが事前会議の役目でした。

 未だ応急復旧途上の水道に係わる者としてはかなり複雑な心境ではありましたが、市全体のことを思うとその気持ちはグッと飲み込まなければなりません。毎日開催されていた災害対策本部が週2回になった時と同様に、この災害復興本部への移行が決まった時も、市長は事前に私へ言葉を掛けてくれるなど、水道局や私のことを気遣ってくれていることですし。

 さてその応接ソファーには、保健福祉部の高田部長も私に少し遅れて着座しました。

 私は早速この少しの待ち時間を利用し、彼女にお願いをします。市立吉田病院の状況は事務局長の浦上からの電話で把握済みですが、飲用水を他の民間医療機関などが確保しているのかどうか情報が私に全く届いていません。その調査を依頼したのです。答えは「わかった」、相変わらずの歯切れの良い一言が返ってきました。混乱時はこのようなシンプルで強い言葉が一番ですね。勇気と元気を与えられます。

 事前会議は20分ほどで終わり、私は同級の笛田教育部長とともに市長室より3つ上階にある彼の部屋へ向かいました。ちなみに〝部屋〟と記しましたが、本庁では部長室といっても水道局の私の部屋と違い、総務部長室以外はパーティーションで囲っただけの狭いコーナーがほとんどです。話し声は全て外に漏れるため、仮に内密の相談をするには別途会議室に移る必要があります。

 私からの用件はそのようなものではありません。吉田地域内市立学校の飲用水対策を確認したかっただけです。彼は学校教育課の戸田課長を呼びました。学校教育課長は歴代現場の教員が交代で務めているため、現場の実情を一番熟知していますから。

 私は両名に状況を確認しました。すると、寸前だった応急加圧水槽の撤去を先送りし、そこからの給水を続けているとの回答です。私がその更なる継続を依頼すると、笛田部長は先ほどの高田部長同様、「わかった」との即答を返してきました。また断水発生以降は、自校給食から他地域同様に、宇和島地域に立地する学校給食センターからの配送に移行しています。その継続も同時に依頼すると、これも前向きな回答が即刻返ってきました。こちらは調整が必要なために決定事項とはならなかったのでしたが、どちらにせよポジティブな姿勢です。

 この2人の部長とともに、高校同期で宇和島市入庁も同期の腐れ縁辻田総務部長、私と同じオートバイ好きで前水道局長の香堂建設部長、それに水道局長の私を入れた同級部長5人の結束は、私にとって力強い助けとなったのです。いやそれだけでなく、宇和島市の災害対応に大きく貢献したと、私はこの手記の執筆をしている現在でも強く思っています。

ー この記事の原文は水道産業新聞2022年(令和4年)1月17日版(第5553号)に掲載されたものです ー


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