三、(11)予感

第四章 新たな闘い

 この頃になると水質に一定の改善傾向が見られ始めました。8月中旬まではクロロホルムに加えトリクロロ酢酸・ジクロロ酢酸の全てで基準値を超過していたのが、下旬にはジクロロ酢酸が基準値に収まり、9月に入るとトリクロロ酢酸も同様の傾向だったのです。そんな状況下でしたが、やはりまだ我々はそれらの検査結果に対しかなり慎重でした。

 さて、報道発表から帰局してしばらくした14時25分、厚労省の是川水道課長から電話が入りました。是川課長によると、今回の豪雨災害に関する国の横断的な初動検証が既に開始されたようで、それに関連し、私に発災当初出回った〝あるスケジュールについての情報〟について事実確認をしたいとのことでした。ただ聞かされた情報は私にとって初耳のものでした。そのため推測の回答しかできません。国に届くくらいの情報ですので、発信はそれなりのポジションの者から、そして当然私にも届いていなければならないものです。それにもかかわらず私に届いていない、いったいどこから…。

 それはさておき、私は逆にその件とは全く違う一つの質問を是川課長へしました。

 三間地域での水質が基準を満たした場合、どのタイミングで飲用可宣言を出すべきなのかについての参考意見を聞きたかったのです。この件は、水道局内でも意見が分かれていました。「一度でもクリアすれば良い」という者がいれば「何回か様子を見るべき」と言う者もいます。私は是川課長に前者の妥当性を問いかけました。

 これまでの経験で、この種の判断は最終的に各水道事業体が行うべきことであることは私も学習しています。是川課長はまず、前提条件として予想通りそのことを述べました。それに続く言葉も予想通り結論的なものではありません。一度のクリアでも良いと考えられなくもないが、かなりデリケートな問題のためにきちんと今のうちに整理しておくべきとの、模範的な回答だったと思います。やはり何らかの根拠を添えて、自分たちでタイミングを決めるしかないようです。

 この後数日間かけて慎重に検討した結果、3回連続して基準をクリアした時点をもって飲用可宣言を発出することが、最終的に市長の判断で決まりました。

 根拠を探す前に私は、給水課の照崎専門員がエクセルで作成した消毒副生成物濃度の推移表から、より視覚的に状況を把握できるグラフを作成しました。その結果、1日単位で増減を繰り返していた期間があったことが一目瞭然となりました。やはり一度のクリアでは根拠に乏しい、まずそのことを確信しました。

 では何回が妥当なのか、これもグラフを参考に連続3回と決めました。8月下旬の傾向を見ると、クロロホルムは減少傾向となってもそれが3回続かなかったのに対し、トリクロロ酢酸とジクロロ酢酸は3回減少傾向が続くとその後更なる減少が続いたからです。統計学上から見ると全く論外な根拠でしょうが、拠り所となるデータは限られているうえに悠長に構えていられる局面ではありません。そのため屁理屈と言われるのを承知で、このように根拠を決定したのでした。

 水質合格の予感は、前市長も抱いたのでしょうか。是川課長との電話を終えた1時間後、前市長から電話が入りました。三間地域で仮に水質が合格した場合、断水以降臨時休業している道の駅みま内のレストランを再開するにあたり、施設の受水槽は消毒すべきかとの質問でした。一度排水してから充水すれば大丈夫と私は答えたのですが、それで前市長は満足げに電話を切りました。次のこと、またその次のことを常に考える前市長ですが、その声から漂う余裕からは何らかの〝良い予感〟を感じ取らざるを得ませんでした。

ー この記事の原文は水道産業新聞2022年(令和4年)2月17日版(第5561号)に掲載されたものです ー


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